話β

by.や



そのとき私は6畳ほどの細長い部屋にいた。真っ暗な部屋の窓から月明りが差し込んでくる。
「今日はちょうど満月なんだ」・・・話しかけないでよ。私はそう思った。私はさっきから機嫌が悪い。というか、はやくこの場から立ち去りたかった。私は月の明りを静かに見つめることで、この自分のどうしようもない気持ちを救っていた。
「・・・まだ来ないのかな」私は彼に話しかけた。そうだ、私は誰かを待っていた。でなければこんな奴とこんなところに、いたくない。ましてや二人きりでなんて。
「さあ」彼は短く返事した。部屋の中には大きな天体望遠鏡があった。毎月行われる観測会で、それを使って星を覗く度、中学生のクラブにしてはいいもの持っているって思っていた。部屋の壁には季節ごとの星図が貼ってある。星は遠く彼方、自ら光を放っているが、この部屋の壁の星は、窓から入って来る月明りでかすかに光っているように思える。月が太陽に照らされて光るように。
「遅いな、真紀」私は独り言のようにつぶやいた。ここは天文クラブの部室だ。学校の建物は古く、とても使い勝手がいいとはいえない。天文クラブは学校も力を入れているらしく、専用の部屋を与えてくれていた。中学生、とはいえ生徒の自主性を重んじていたのだろうか、部員はそれをいいことに、そこをたまり場のようにして、いつまでもいた。でも私はあまりこの部屋に来た事はない。真紀がいたから、ここにいる必要はなかった。
「久しぶりだからって迷ったのかな・・・」心配だ。そうだ、真紀と待ち合わせていたから、来たのだ。真紀がここで集合って言ったから。ふ、と部屋が薄暗くなった。
「満月って人間のもう一つの性格が出るって、聞いたことない?」彼は立ち上がった。
「・・・なにそれ」
「良くいわない?」
嫌いだ、この言い方。なんで知っているような口ぶりをするんだろう。彼は星図を右手ですー、、、と触りながら、私の背後にまわった。
「真紀は来ないよ」
「どうして」
雲に隠れていた満月がまた煌々と明るく輝いた。冷たく鋭利な光線で、部屋に差し込んでくる。やめて、近づかないで。耳元で囁かないで。たすけて、たすけて、タスケテ、マキ、真紀、、、、
「誰だ、そこにいるのは」
突然、激しい光りが私の体を包みこんだ。満月が、私を救ってくれたの?それとも、、、
「そんな時間に何をしているんだ」
私は体が硬直した。あれは一体、いつだったんだろう。どうして私はここにいるのだろう?マ、真紀は、、、どうして来なかったのだろう。あんなに、いつも一緒にいたのに。
「おい、どうしたんだよ」
彼は私に話しかけた。
「え」
ぽとり、と乾いたグラウンドに水滴が落ちた。何故だか、分からない。でも出てしまう。流れるように、体からすべての水が出てしまうのでは、と思えるくらい、どうしようもなく、どうしようもなく、涙が溢れ出て、止まらなかった。
真紀、マキ、どうして?

話β ─終─

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第四話(とくぢろう)