第一場 オープニング・ダンス
開幕のベルが鳴る 開幕 これからの展開を思わせるようなダンス。余韻を残しつつ、一旦幕が閉まる。 |
第二場 合格発表
幕前。何やら辺りがざわついている。合格者番号の張り出しが舞台正面辺りにある設定。 |
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まちこ | あ、なんだ、もう張り出してあるじゃない。一子、早く行こ。 |
一子 | 待ってよ、まちこ。何だかあたし緊張しちゃって……。ああ、あたしの番号がなかったらどうしよう。 |
まちこ | 今さら何言ってるのよ。試験はとっくに終わってるんだから、ここでじたばたしたって仕方ないでしょ。ほら、もたもたしてないで、早く。おいてっちゃうわよ。 |
一子 | あ、もう、待ってよ。(独り言)どうしてそんなに落ち着いてられるんだろ。きっとまちこの神経はものすごく図太いんだわ。だから、あたしのような繊細な人間の気持ちはわからないのよ。 |
まちこ | (振り返る)なぁに。何か言った? |
一子 | (とぼけて)いいえ、別に。何も言ってませんよって。 |
まちこ | 嘘おっしゃい。ちゃんと聞こえてたんだから。 |
一子 | 聞こえてたんなら最初っからそう言えばいいのに。嫌なやつ。 |
まちこ | 何か文句あるの? え? 繊細なお嬢さん。 |
一子 | いやみー……。あたしあんたのそーいうところが大嫌いなのよね。 |
まちこ | あら、いやにはっきり言うじゃない。繊細な人の発言とは思えないわね。 |
一子 | (かっとして)しつこいっ!(まちこに殴りかかる) |
まちこ | (ひょいとかわす)やっといつもの調子になってきたじゃない。その方がいいわよ、あんたらしくって。どう繊細ぶってみたところで、所詮似合いやしないんだから。 |
一子 | もー頭にきたっ。よくも言ったわね? 二度とそんな口がきけないようにしてやる。まちこ、決闘よ! 覚悟おし。(すっかりその気になっている) |
まちこ | よしなさいよ、こんな人前で。何のためにこんな遠くの学校受験したのか忘れたの? 全部平穏な高校生活を送るためでしょ。 |
一子 | あ……そうだった。 |
まちこ | さ、それなら早く見に行きましょ。とにかく合格してなきゃお話にならないんだからね。 |
一子 | そうね。この決着はその後でつけたって遅くないものね。 |
まちこ | (呆れて)まだ言ってる。 |
二人、近づいてきて発表を見る。自分の番号を一所懸命に探している。 |
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一子 | ええと、あたしの番号は、と。ろっぴゃくはちじゅう……(見つけだす)さん。683。683。やった、あった!良かったぁ、よかったぁ。(一人喜んでいる) |
まちこ | ちょっと……恥ずかしいからやめなさいよ。 |
一子 | どうしてよ。嬉しいから素直に喜んでるんじゃないの。そーいうまちこはどうなのよ。 |
まちこ | 受かったに決まってるでしょ。あんたが受かってどうしてあたしが落ちたりするのよ。自慢じゃないけど、あんたよりあたしの方が賢いんだからね。 |
一子 | だったらどうして喜ばないのよ。 |
まちこ | 喜んでるわよ。でも、あたしはあんたみたいに単純じゃないからね。そんなおおげさに喜んだりしないの。 |
一子 | (むっ)おおげさってのは何よっ。失礼ね。嬉しいから喜ぶののどこがいけないの? |
まちこ | いけないなんて言ってないでしょ。ただ、あんまり喜ぶと、余程自信なかったみたいに見えるから嫌なのよ。 |
一子 | あんたって本当ひねくれてるわねー。そんな事気にすることないじゃない。人目なんて気にしてたら何もできないわよ。 |
まちこ | 気にしなかった結果がこれなんじゃないの? |
一子 | うっ……。(絶句する) |
まちこ | 人目なんか気にせずに、しょっちゅういろんな人と喧嘩して、そのあげく先生方からは目をつけられて、他の生徒からは恐れられて。ついたあだ名が「アームストロング」。こんなの女の子のあだ名じゃないわよ。これでも人目なんて気にしなくてもいいっていうの? |
一子 | それは……そうだけど……。 |
まちこ | この際だから言っとくけど、あたしたちがわざわざこんな遠い学校受験したのは、そんな生活に嫌気がさしたからなんだからね。知らない人ばかりの学校で、今度こそ落ち着いて生活しようと思ったからなんだからね。 |
一子 | わかってるわよ、それくらい。言われなくたってさ。 |
まちこ | だから、ここで約束しましょ。もう二度と喧嘩はしないって。 |
一子 | えー? もう二度とって……耐えられないわよ、そんなの。欲求不満になっちゃうじゃない。 |
まちこ | じゃ、あんたまた中学の時みたいな事になってもいいのね? |
一子 | そっ……それも困るわよ……。 |
まちこ | そうでしょうが。またあんな目に遭いたくなかったら、二度と喧嘩はしないこと。いい? |
一子 | ん……不本意だけど……まぁ仕方ないわね。あぁ、こんな事になるんなら、中学の間に思う存分暴れときゃ良かった。 |
まちこ | 馬鹿なこと言わないの。じゃ、約束したわよ。特にあんたは喧嘩っ早いんだから、要注意よ。 |
一子 | わかったわよ。手を出さなきゃいいんでしょ。 |
まちこ | 足もよ。 |
一子 | わかってるわよ! くどいなあ。 |
まちこ | きっとよ。これはあたしたちの間の……いうなれば「Fairwell to arm協定」なんだから。 |
一子 | Fairwell to arm……? 何それ。 |
まちこ | 「武器よさらば」ってやつよ。この場合だったら、「喧嘩よさらば」ってとこかしら。 |
一子 | 「喧嘩よさらば」か。あーあ、つらいなぁ……。 |
まちこ | 我慢、我慢。 |
一子 | うん。……あれ。ってことは、さっきの決着もつけられないってこと? |
まちこ | ま、そーいうことね。 |
一子 | えー!? ひどいじゃない! |
まちこ | ひどいって……中学の時の二の舞よりはずっとましでしょ。 |
一子 | そりゃあそうかもしれないけど……あーもう、ジレンマだっ。 |
まちこ | すぐに慣れちゃうわよ。それまでの辛抱なんだから。 |
一子 | ……うん……。 |
まちこ | さ、それじゃ学校に報告よ。早いとこ知らせとかないと、また大目玉よ。(行きかける) |
一子 | そーね。で、その後で祝杯でもあげに行くとしますか。 |
まちこ | また。あんたって何かっていうと飲んだり食べたりしようとするのね。 |
一子 | 何よ、嫌なの? じゃ、あんたは行くのやめとく? |
まちこ | そんな事言ってないでしょ。行くわよ、行きますよ。決まってるじゃない。 |
一子 | じゃ、つべこべ言わなくてもいいでしょっ。あたしはあんたのそーいうところが大嫌いなのよ。 |
まちこ | それはどうもありがとう。お誉めいただいて恐縮です。 |
一子 | ったく、ちっとも動じないんだから。あんたといるとあたし本当に欲求不満になりそーよ。 |
まちこ | まぁ、それはそれは。大変ねー。 |
一子 | ちょっと、一体誰のせいだと思ってんの?(つかみかかろうとする) |
まちこ | (平然と)協定違反。ペナルティーよ、一子。もう忘れたの? |
一子 | ……わかったわよ。あぁもう、しゃくにさわる。 |
まちこ | それじゃ、行きましょ。 |
まちこ、すたすたと元来た方へと退場。一子もしぶしぶ退場。 |
第三場 密談
二人が行ってしまうと、幕前に祥子が現れる。懐かしげにきょろきょろとあたりを見回していると、下手側の幕の後ろから小夜子と宇都宮がやってくる。慌てて隠れる祥子。 |
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小夜子 | ……うん、ここなら誰も来ないな。 |
宇都宮 | は。誰にも聞かれる心配はありません。 |
小夜子 | よし。 |
二人、幕を開けて中へ入る。机と椅子がいくつかある。どうやら、どこかの空き教室らしい。祥子は動くに動けずじっとしている。 |
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小夜子 | ここに私達が来るのを誰も見てはいないだろうな、宇都宮。 |
宇都宮 | 大丈夫です。その心配はありません、小夜子様。 |
小夜子 | そうか、それなら良いが。 |
宇都宮 | ところで、お話というのは? |
小夜子 | ああ、それだがな。今度の生徒会長選挙に立候補しようと思うのだ。 |
宇都宮 | 小夜子様が、ですか? |
小夜子 | ああ、そうだ。悪いのか? |
宇都宮 | いえ、そうは言いませんが……しかし、また何故。 |
小夜子 | 簡単なことだ。私は目立ちたいのだ。生徒会長ともなれば、自然と全校生徒の前に出る機会も多くなる。ふっふっふ。それが私の狙い目だ! 私は誰よりも目立たないと気が済まぬのだ! 目立ちたがり屋さんと呼んでくれ。 |
宇都宮 | ……それだけですか? |
小夜子 | 何がだ。 |
宇都宮 | 本当にそれだけの理由からですか? |
小夜子 | (ぎくっとする)な、な、何だ、疑っているのか? |
宇都宮 | いえ。ただ私は小夜子様の性格をよく知っているので、それだけとはどうしても思えないのですよ。他にも理由があるのでしょう。違いますか? |
小夜子 | (一瞬絶句するが)ふはははは、よくぞ見破ったっ! それでこそ私の忠実な部下! そうとも、理由はそれだけではないっ! |
宇都宮 | やはり。それで、そのもう一つの理由というのは? |
小夜子 | うむ。それはな。もし私が生徒会長になったら。 |
宇都宮 | 小夜子様が生徒会長になったら。 |
小夜子 | 学校中の男子は私のもの!ふほほほほ、酒池肉林じゃいっ。ハーレムじゃいっ。逆大奥じゃいっ。 |
宇都宮 | ……いかにも小夜子様らしいお考え。そんなことだろうとは思いましたが。 |
小夜子 | というわけで、お前にも手伝ってもらいたい。副会長に立候補するのだ。 |
宇都宮 | 私がですか? |
小夜子 | 当然だ。他に誰がいると言うんだ? |
宇都宮 | しかし、私は……。 |
小夜子 | 何だ、乗り気ではないのか? |
宇都宮 | はぁ。どうも私はそういったことは……。 |
小夜子 | そうか、残念だな。もしお前が副会長になったら……。 |
宇都宮 | もし私が副会長になったら? |
小夜子 | 学校中の女子はお前のもの、なんだが。いや、残念だなぁ。 |
宇都宮 | はっはっは、誰が断るなどと言いました? もちろんやりますとも。 |
小夜子 | そうだろう、そうだろう。お前とて相当なむっつりすけべ、このような話断るはずもなかろう。最初から私にはわかっていた。 |
宇都宮 | はっ、ばれたか。 |
小夜子 | ふはははは、よいよい。自分の欲望に正直な人間は私は好きだ。気にせずとも良い。 |
宇都宮 | は。 |
小夜子 | これで話は決まった。今度の会長選に立候補するぞ。 |
宇都宮 | はあ。……しかし、立候補の締め切りはもう過ぎているのでは? |
小夜子 | ふはははは、心配するな、もうすでに届けは出しておる! |
宇都宮 | す、素早い! |
小夜子 | そうとも。この鍋縞小夜子、酒池肉林のためなら何でもする。 |
宇都宮 | さすがは小夜子様。感服いたしました。 |
小夜子 | さぁ、では細かい手筈を決めるとするか。 |
宇都宮 | は。しかし、小夜子様、勝算はおありなのですか? 現会長出雲新太郎はなかなか人気がありますし、次の会長選にも立候補という噂を聞いております。あやつに勝つのは難しいですよ。 |
小夜子 | 正攻法なら、確かに難しいな。 |
宇都宮 | と、おっしゃいますと。 |
小夜子 | 宇都宮、この私が、正々堂々と、正面切って戦うとでも思っているのか? |
宇都宮 | すると、小夜子様。 |
小夜子 | そうとも、卑怯な手段を使うのだ! 卑怯さにかけては絶大の自信がある。人はこんな私を卑怯者小夜子ちゃんと呼ぶ。 |
宇都宮 | そんなことで威張らんでください。 |
小夜子 | 仕方なかろう。他に威張ることがないのだ。 |
宇都宮 | ははは、まぁ否定はしませんが。 |
小夜子 | 何だと? |
宇都宮 | いえいえ、こちらの話です。それで、どのような手を使うおつもりなのです? |
小夜子 | うむ。……宇都宮、この間の卒業式のことを覚えているか。 |
宇都宮 | は? ……ああ、覚えておりますとも。式の最中に小夜子様が大いびきをかいて。恥ずかしかったですね。 |
小夜子 | なっ、そう言うお前こそ、でかい声で寝言を言ったろ。私は覚えているぞ。校長が「卒業証書授与」と言った途端に、「うわー、お化けだぁ、助けてぇ」……私は情けなかったぞ。 |
宇都宮 | あ、それを言うなら小夜子様だって、よだれ垂らしてみっともなく眠りこけてたじゃありませんかっ。 |
小夜子 | 宇都宮、お前というやつはっ! あ、いやいや、そんな話をしている場合ではないのだ。ほら、卒業式の日、出雲のやつはひどく遅れてきただろう。 |
宇都宮 | あ、ああ、そういえば。そのせいでかなり予定が狂って時間がずれたんでしたね。でも、いくら聞いても理由を言わないんだそうです。 |
小夜子 | それでだ。大切な卒業式の日に遅れてきて、その式の予定を狂わせるなど、会長失格だとは思わぬか? |
宇都宮 | ……なるほど、そういう手がありましたか。さすがは小夜子様、悪知恵が働く。 |
小夜子 | ふはははは、自慢じゃないが、奸智には生まれつきたけておる。悪代官小夜子ちゃんと呼んでくれ。 |
宇都宮 | じゃ、さしずめ私は越後屋秀徳くんですか。 |
小夜子 | なんだか、ケンちゃんシリーズみたいだな。 |
宇都宮 | ああ、「おもちゃ屋ケンちゃん」とか。 |
小夜子 | そうそう。……とにかく、今度の立会演説会でだな、出雲を徹底的に弾劾して、やつを失脚させる。そこへさっそうと現れるのがこの私! 指導者を失った哀れな子羊どもは私を会長に選ぶ。……どうだ、見事な筋書きだろう。 |
宇都宮 | いや、小夜子様の悪知恵にはいつもの事ながら、この宇都宮、ほとほと感心いたしますよ。 |
小夜子 | さもあらん、さもあらん。さぁ、そうと決まれば頑張ろうな、宇都宮。 |
宇都宮 | はい、小夜子様。小夜子様が生徒会長で。 |
小夜子 | 宇都宮が副会長。そして。 |
小・宇 | 学校中の男子・女子は私のもの! |
宇都宮 | ははははは、酒池肉林じゃい、ハーレムじゃい、大奥じゃあいっ! |
小夜子 | 打倒、出雲新太郎じゃあ。ふはははは……。 |
二人、笑い続ける。舞台のライト消える。すっと幕が閉じる。残された祥子、動揺を隠しきれない。 |
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祥子 | ……大変だわ、何とかしなくっちゃ。このままじゃ、あの人たちの思う壺。どうにかして計画を阻止しなきゃ。でも……一体どうしたら……。 |
舞台、暗転。 |
第四場 出逢い
後ろから通路を通りまちこと一子が入ってくる。二人とも高校の制服を着ている。祥子は前場より残っている。 |
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まちこ | ……あーあ、あたしたちって本当腐れ縁だわね。また同じクラスだなんて。 |
一子 | 本当、まちことだけは一緒のクラスになりたくなかったのに。 |
まちこ | それはこっちの言う台詞! それに考えてもみなさいよ。一緒のクラスだったら、あたしたちの正体がばれる機会がいやでも増えちゃうのよ。 |
一子 | どうして? |
まちこ | あたしとあんたが喋ってて、喧嘩にならなかったことが一度でもある? |
一子 | ……そーか。そうよね。あたしたちの性格じゃ、しょうがないわね。 |
まちこ | あたしたち? あんただけでしょ。 |
一子 | 失礼ねっ! (思わず殴りかかろうとする)あ、いけない。 |
まちこ | ほーら、ごらん。やっぱりあんたの性格のせいじゃない。 |
一子 | そりゃあ……ちょっとばかし喧嘩っ早いってのは認めるけど、あんたのその陰険な性格にも問題があるんじゃない? |
まちこ | あんたも言うわねー。……ま、いいわ。こんな事で喧嘩になったりしたら、それこそ何のために今まで苦労したかわからなくなるわ。 |
一子 | そーね。あんたってどうもいけ好かないやつだけど、言ってることは的を射てる。 |
まちこ | 一言よけいなのよっ。……とにかく。前みたいに「世界最強のコンビ」だとか「アームストロング」とか呼ばれたくなかったら、あたしの言うとおりにするのよ。 |
一子 | はいはい。わかりましたよ。 |
まちこ | ……どうも信用できないのよね、一子の言う事って。 |
一子 | なんですって! |
祥子 | (意を決して)あの……まちこさんと一子さん……ですね? |
一子 | は? そうですけど。 |
祥子 | 今のお話、悪いと思ったけど聞かせてもらいました。それで、あなた方お二人を見込んでお願いがあるんです。 |
一子 | お願い? |
祥子 | ええ。聞いていただけますか? |
まちこ | それより、あなた誰です? 名乗りもしないでいきなり、失礼じゃありませんか。 |
祥子 | あ、あぁ、ごめんなさい。あたしは祥子です。立野祥子。 |
まちこ | ふうん……同じ制服着てるところを見ると、あなたもここの生徒ってわけね。……それで? お願いっていうのは? |
祥子 | あの……それは……。 |
一子 | 言いにくいことなんですか? |
祥子 | いえ、そんなこと……。実は、こんな事頼みにくいんですけど……是非あなた方に協力して欲しいんです。 |
一子 | 協力? |
祥子 | ええ。あたしに力を貸していただけませんか? |
まちこ | そんなこと言われたって、どんな内容なのか言ってくれないと。 |
祥子 | あ、そうですね。それじゃ、言っちゃいますけど……実はもうすぐ生徒会役員の選挙があるんです。 |
一子 | あ、知ってる。ポスターとかいっぱい貼ってあったから。 |
祥子 | それで、今の会長さんは出雲新太郎といって、みんなからの信頼も厚い人なんです。だから、もちろん次の選挙にも立候補してて。当選はまず間違いないだろうって言われてたんです。 |
まちこ | 言われてたってことは、今は違うのね? |
祥子 | ええ。さすが察しがいいわ。あなたのおっしゃる通りなんです。鍋縞小夜子って人が立候補してから、どうも状況が変わってきたんです。会長さんに不利な方向に。 |
一子 | っていうと? |
祥子 | 実は……この鍋縞さんたちは、卑怯な手段を使って会長さんを失脚させようとしてるんです。 |
一子 | 卑怯な手段……。 |
まちこ | 具体的に、どんな? |
祥子 | (しばらく言いよどむ)会長の出雲さんは、この二月の卒業式の日、ひどく遅れてきたんです。そのせいで式の進行は遅れてしまいました。そのことを理由に、彼を会長の座からひきずりおろそうとしてるんです、あの人たち。 |
まちこ | ……でも、式に遅れてくるのも良くないと思うけど。理由は? |
祥子 | それは……個人的なことなので……。 |
まちこ | あきれた。個人的な理由で遅れるようじゃ、失脚させられたって仕方ないんじゃない? |
一子 | まちこ、言い過ぎよ。 |
まちこ | でも本当のことだわ。 |
一子 | だけど、あんたの言い方ってきついのよ。そんな言い方されたら、この人だって傷つくわよ。 |
祥子 | いえ……確かに、あの人の行動は誉められたものじゃありません。でも……鍋縞さんたちは、もっとひどいんです。 |
まちこ | へえ、どんな風に? |
祥子 | あの人たち、私利私欲のために立候補したんです。自分たちのハーレムを作るために。 |
一子 | ハーレム? 何考えてんの、その人たち。 |
祥子 | そりゃ、あたしだって鍋縞さんたちが本当に学校のためを思って立候補したのなら文句は言いません。でも、そんな理由のために立候補した人たちに、出雲さんを責める資格はありません。 |
まちこ | ふうん……それで? あたしたちに何をして欲しいわけ? |
祥子 | あたしと一緒に、鍋縞さんたちの陰謀を叩きつぶして欲しいんです。 |
一子 | へぇ、面白そうじゃない。(まちこに足を踏まれる)いたっ、何すんのよっ。 |
まちこ | (無視して)でも、どうしてあたしたちに? |
祥子 | どうもお話を聞いているとお二人とも強そうだから……心強いと思って。お願い、あたしに協力してください。 |
まちこ | ……悪いけど、お断りします。 |
祥子 | えっ……どうして? |
一子 | そうよ、まちこ。面白そうじゃないの。 |
まちこ | そんなごたごたに関わりたくないんです、あたしたち。さ、一子、行こ。 |
祥子 | そんな……待って、お願い! |
まちこ、無視して歩いていく。一子も後からついていく。残された祥子はしょんぼりと肩を落とす。 |
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祥子 | ……こうなったら、あたし一人でなんとかしなくちゃ……。(幕の後ろに引っ込む) |
一子 | (上手側幕前にて)待ってよ、まちこ。どうして断ったりしたの? あれじゃあの人かわいそう。 |
まちこ | 馬鹿ね、あれ引き受けちゃったら、また中学の二の舞よ? まさかあんた、おだやかに話し合いするとでも思ってるの? 陰謀をつぶすって事は、喧嘩になるってことよ。 |
一子 | そりゃ、わかってるわよ。だけど……。 |
まちこ | そんなに気になるんなら、あんた一人で助けてあげれば? で、あんただけ正体がばれて、あんただけみんなから恐れられたらいいのよ。でも、間違ってもあたしの名前は出さないでね。 |
一子 | まちこ! あたしはね、何もそんなこと言ってるんじゃないわよ。ただね、あんたのその冷たい態度が気にくわないの。あの人にだって、もっと言い様ってものがあったでしょ? |
まちこ | ほっといてよ。生まれつきこーゆー性格なんだから。 |
一子 | (怒りを抑えて)あ、そう。……ね、まちこ。あたしたちしばらく口きかない方がいいかもね。こんな気持ちのままじゃ、絶対に喧嘩になっちゃう。 |
まちこ | ……それがいいわね。あたしも当分あんたとは話したくないわ。 |
一子 | ……じゃね。お互い約束を守って静かに暮らしましょ。 |
まちこ | そうね。さようなら。 |
一子、幕の後ろに引っ込む。 |
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まちこ | あーあ、参ったなあ。あたしも相当かりかりしちゃってる。喧嘩の禁断症状かしらね。 |
舞台、暗転。 |