第八場 疑惑
幕が開き、まちこと一子、中にいる。第三場と同じようなセット。 |
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一子 | 一体どういう事なの? |
まちこ | わからないわ。でも、確かに、名簿にはあの人の名前はなかった。 |
一子 | ってことは、あの人はやっぱりこの学校の生徒じゃないのね。じゃ、一体何のためにうちの制服を着てあたしたちの前に現れたの? 何が目的なの? |
まちこ | さあ……。 |
一子 | あたしたちをだましてたのね、あの人。 |
まちこ | でも、あの人ははっきり自分はこの学校の生徒だ、なんて一度も言ってないわよ。 |
一子 | だけど、制服着てれば誰だってそう思うわよ! |
まちこ | だけど、あの人は嘘ついたわけじゃないわ。あたしたちが勝手にそう思いこんだだけ。 |
一子 | でもっ! |
まちこ | ね、一子。あんた、祥子さんが悪い人に見えた? そうは見えなかったでしょう? あの人は一所懸命会長さんを守ろうとしてるのよ。悪い人なんかじゃないわ。 |
一子 | じゃ、じゃあ、あの人は一体何者なの! 悪い人じゃないなら、どうしてあんな格好してるわけ? |
まちこ | それは、本人に聞いた方がいいんじゃない? |
一子 | え? どういう事? |
まちこ | (幕の陰に向かって)祥子さん、そこにいるんでしょ。わかってるのよ。出てらっしゃい。 |
祥子 | (出てくる)……ごめんなさい。 |
まちこ | さ、本当のこと話してくれるわね。 |
一子 | あなた一体何者なの! |
祥子 | それは……。 |
まちこ | あなたが悪い人じゃないのはわかってるわ。でもね、本当のことを話してくれなきゃ、どうしてもあなたのことを疑ってしまう。そんな気持ちのままじゃ、協力なんて出来ないでしょう。 |
一子 | 第一、やましいことがないんなら話せるはずよ! 話せないってことは、あなた何か悪いことを企んでるんでしょ。 |
祥子 | そんなこと……あたしはただ……。 |
まちこ | ……ねえ、そんなにあたしたちのこと信用できない? あたしたち仲間でしょう。仲間っていうのは、お互い信じあわなくちゃ。 |
祥子 | ……わかったわ。話します。実は……。 |
一子 | 実は、じつは、実話……なんてのは無しよ。そんなこと言ったらぶつからね。 |
祥子 | わかってます。ちゃんと話しますから。実はあたし、幽霊なんです。 |
一子 | ゆうれいっ? 馬鹿なこと言わないでよ。だってあなた足だってあるし、ちゃんと実体があるじゃない。 |
祥子 | やっぱり信じてくれないのね。でも、ほら。(一子の手を取り手首をつかませる)ね、脈がないでしょう。あとは生きてる人とおんなじ。違うのは、心臓が動いてないってことだけ。 |
一子 | (驚いている)あ……そんな馬鹿な……。 |
まちこ | (同じように祥子の手首をつかんでみて)本当。じゃ、本当にあなた、幽霊なのね。 |
祥子 | 幽霊だなんて名乗ったところで誰も信じてくれないだろうから、言えなかったのよ。 |
まちこ | なるほどね。じゃ、その黒いリボンは、あなた自身のためなんだ。 |
祥子 | ええ。あたしはもう死んでるんだもの、明るい色のリボンなんてできないでしょう。 |
まちこ | それで、あなたが死んでるってのはわかったけど、それならなぜ今更ここに? |
一子 | そっ、そうよ。何しに来たの? |
祥子 | 二年生の途中からずっと学校を休んでたから、あの世へ行く前に、もう一度学校の様子を見ておきたかったのよ。怪しまれないように、制服まで着て。そこで、鍋縞さんたちの話を聞いてしまったの。 |
まちこ | ……かなりわかってきたわ。でも、まだあるわ。会長さんのこと。聞かせてちょうだい。 |
一子 | まさか、つきあってたってのも嘘なんじゃ……。 |
祥子 | それは本当よ。小さい頃から幼なじみで、一年の頃からつきあい始めて……入院してからも、よくお見舞いに来てくれた。でも、しばらくすると、なかなか来てくれなくなったの。週に一回が月に一回になり、そのうち二ヶ月に一回くらいになって……。あたし、知らなかったのよ。あの人が、新ちゃんが会長になったなんて。だから、てっきりあたしのことなんか忘れてしまったんだと思ったの。 |
まちこ | 本当は、生徒会の仕事で忙しかったのね。 |
祥子 | ええ。そして、ある日、本当に久しぶりに新ちゃんがお見舞いに来てくれたの。でもあたし、長い間来てくれなかったのがしゃくで、眠ったふりをして黙ってたのよ。 |
一子 | あーあ、せっかく来てくれたのに。 |
祥子 | あたしが眠ってると思って、新ちゃん、いろんなことを話してくれた。「会長になってから忙しくてあまり来られなくて、ごめん。実は、祥子が次に来るときに学校が一番いい状態になってるようにしようと思って、会長になったんだ」って。あたし、すごく嬉しかったの。でも結局、何も言わずに黙ってた。だけど……新ちゃんが帰ってしまってから、あたしひどく後悔したのよ。どうして素直にありがとうって言えなかったんだろうって。もっと素直に……なれば良かったって。 |
まちこ | それで、どうしたの? |
祥子 | あたし、決心したのよ。次に新ちゃんが来てくれたら、その時こそ素直になろうって。今度こそ、本当にありがとうって言おうと思ったのよ。でも……あたしには、この次はなかったの。 |
一子 | っていうと? |
祥子 | その晩、あたしは死んでしまったの。自分で思ってたより病気が重かったらしいわ。 |
まちこ | あら……。 |
祥子 | それで、そのお葬式と、卒業式が重なってしまって……。お葬式に来てくれたせいで、卒業式に遅れてしまったのよ。 |
まちこ | そういうことだったの……。 |
祥子 | そして、素直になれなかった自分への後悔の思いが、死んでしまった今も、あたしをこの世に縛りつけて離さない……。 |
一子 | ……どうして会長さんに会ってそう言わないの? |
祥子 | だって、今更どんな顔して逢えるっていうの? こんなひどい迷惑をかけたのに、平気な顔で逢えるわけないじゃない! |
まちこ | じゃ、いつまでも会長さんを避けてるの? そんなんじゃ、いつまでたったって成仏できないじゃない。 |
祥子 | わかってるわよ。でも……駄目よ。 |
一子 | このままじゃ、会長さんもかわいそうよ! |
祥子 | だって……あたし……。 |
まちこ | ……ね、祥子さん。あたしの一番好きな言葉、知ってる? |
祥子 | え、何をいきなり……。そんなの、わからないわ。 |
まちこ | 「ファンタスティック」って言葉なの。 |
一子 | 「ファンタスティック」ぅ? |
まちこ | そう、空想的な、とか、風変わりな、とかいう意味の言葉だけど、「素敵な」って意味もあるの。あたしね、いつだって素敵な生き方をしたいなって思ってるの。そして、そうしてるつもりよ。だけど、祥子さん、今のままじゃ、あなたも会長さんも、ちっとも素敵じゃないわ。 |
一子 | わー、まちこ気障ぁ。 |
まちこ | からかわないの。ね、祥子さん。本当にこのままでいいの? |
祥子、黙ったまま。 |
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まちこ | ……ま、いいわ。とにかく、あなたの話はよくわかったから。協力はするわ。ね、一子。 |
一子 | え、うん、そーね。そんな事情があるんなら、手伝っちゃう。 |
まちこ | でもね、祥子さん。よく考えてみてね。このままで本当にいいのかどうか。 |
祥子 | ……うん。 |
一子 | じゃ、頑張ろ。立会演説会までもう日がないんだから。 |
まちこ | そーね。鍋縞さんを会長になんかさせるもんですか。 |
祥子 | ……ありがとう、二人とも。 |
まちこ | じゃ、今日はこれくらいで、解散。 |
舞台、暗転。 |
第九場 再会
前場より、祥子残っている。そこへ、下手より一子入ってくる。 |
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一子 | 大変よ。今日になって会長さん、立候補取りやめるって言ってきたんだって! |
祥子 | え、新ちゃんが? ……どうしてそんな。 |
一子 | この間の立会演説会の時、鍋縞さんにいろいろ言われてこたえたんじゃない? |
祥子 | そんな……! |
一子 | このままじゃ、鍋縞さんに有利だわ。下手すると、あの人当選しちゃうかも。 |
祥子 | えっ……駄目よ、そんなこと。 |
一子 | 今、まちこが会長さん説得してるわ。うまくいくといいんだけど。なにがなんでも、鍋縞さんを当選させるわけにはいかないんだから。 |
そこへ、まちこ下手から入ってくる。 |
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一子 | あ、まちこ。どう、会長さんの方。 |
まちこ | 駄目。ちっとも話を聞いてくれないのよ。絶対やらないって言ってるわ。 |
一子 | そう……困ったわね。 |
まちこ | うん。このままじゃらちがあかないから、あたし強引につれて来ちゃった。 |
祥子 | えっ? |
まちこ | さ、会長さん、入ってください。 |
出雲 | (しぶしぶ下手から入ってくるが、祥子を見て)……祥子? |
祥子、慌てて目をそらす。 |
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出雲 | ……まさかな。そんなはずはない。祥子は死んだんだから。 |
祥子、逃げだそうとする。 |
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まちこ | 祥子! (腕をつかむ)ここで逃げたら、また後悔することになるわよ。それでもいいの? このままじゃ、会長さんだってかわいそうだわ。最後の最後まであなたに背を向けられて。 |
一子 | 会長さんに会長になって欲しいんでしょ? だったら、自分でそう言わなくちゃ、気持ちなんて伝わらないわよ。 |
まちこ | さぁ、祥子。 |
祥子、意を決して出雲に向き直る。 |
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出雲 | ……祥子……馬鹿な……。(あとずさりする) |
祥子 | 待って、行かないで。あたしの話を聞いて。 |
出雲 | ……本当に……祥子……? |
祥子 | そうよ、あたしよ。 |
出雲 | だって、祥子は死んだはず……。 |
祥子 | 死んだわ。でもね、どうしても死にきれないの! あなたに言わなきゃならないことがあるの。 |
出雲 | ……言わなきゃならないこと? |
祥子 | そうよ。(出雲の背中にしがみつく)……ごめんなさいっ。 |
出雲 | ……えっ? 一体……。 |
祥子 | 新ちゃんがお見舞いに来てくれた時、あたし本当は嬉しかったの。嬉しくて、たまらなかった。でも……何も言えなくて。素直になれなかった自分が、悔しくて仕方なかったのよ。おまけに、あたしのせいで、卒業式のことで新ちゃんは責められて……。ごめんなさい。 |
出雲 | 祥子……。 |
祥子 | そして、ありがとう。あの日、お見舞いに来てくれて。お葬式にも来てくれて。そして、何より、あたしのために会長さんになってくれて、ありがとう。こうやって学校を見てみると、新ちゃんがどんなに素敵な会長さんだったか、よくわかるわ。生きてるうちに、もう一度ここに来たかった……。 |
出雲 | 祥子、僕は……。 |
祥子 | (さえぎって)でも、逢えて良かったわ。思いを伝えることができて、本当に良かった。……ね、最後に一つお願いがあるの。もう一度、会長さんになって。今度はあたしのためじゃなく、まちこさんや、一子さんや、これからこの学校へやってくる人たちのために。その人たちが、「ああ、この学校へ来て良かった」って思えるように、ますます素敵な学校にしてほしいの。鍋縞さんたちに負けちゃ駄目よ。……ね、お願い。 |
まちこ | 出雲さん、あたしたちからもお願いします。あなたは知らないかもしれないけど、あの鍋縞さんは、私利私欲のために会長になろうとしてるんです。もしあなたが立候補しなかったら、無条件であの人が会長になってしまうわ。 |
一子 | あの人たちに負けちゃ駄目です。お願いです、出雲さん。会長になってください。 |
出雲 | あなたたちは……? |
一子 | ちょっと縁があって、祥子さんに協力してるんです。あなたを会長にするために。 |
出雲 | 僕を? |
まちこ | ええ。祥子さんにいろいろと事情を聞いたものですから。 |
出雲 | そうだったんですか。でも、僕は駄目です。 |
一子 | どうして? |
出雲 | 僕は、会長失格ですから。 |
祥子 | そんなことないわ! 勇気を出して。 |
出雲 | でも……他の人たちはそう思ってはくれないよ。 |
祥子 | 大丈夫よ。本当のことを言えば、みんなきっとわかってくれるわ。 |
出雲 | 祥子……。 |
祥子 | (リボンをほどいて出雲の手首に結びつける)ほら、これお守り。あたしがついてるから。ね、頑張って。 |
一子 | そうですよ。あたし、応援演説やりますから。 |
まちこ | あんたが? できるの? |
一子 | 馬鹿にしないでよ。それくらいあたしにだってできるわよ。 |
まちこ | そう……? 出雲さん、この子もこう言ってるんだし、立候補やめるなんて言わないでください。 |
祥子 | そうよ。ね、新ちゃん。 |
出雲 | ……わかった。どうなるかわからないけど、できるだけやってみるよ。 |
祥子 | ……ありがとう! |
一子 | それじゃ、早く行きましょう。そろそろ立会演説会が始まります。 |
祥子 | 頑張ってね、二人とも。 |
一子 | ええ。さ、出雲さん、行きましょう。 |
二人、行こうとする。 |
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小夜子 | (声)ふはははは、そうはさせん! |
まちこ | この声は。 |
小夜子と宇都宮、通路を通り入ってくる。 |
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小夜子 | 出雲新太郎、悪いがお前を行かせるわけにはいかん。 |
宇都宮 | 会長になるのはお前ではなく、この小夜子様なのだからな。 |
まちこ | やっぱり来たわね。でも、駄目よ。あたしたちがいる限り、あんたたちの思うとおりにはさせないわ! |
一子 | あんたを会長にはさせないわ。絶対に、ね! |
小夜子 | ふふふ、その元気がどこまでもつかな? |
一子 | それはこっちの言う台詞よ。出雲さん、祥子さん、あなたたちはさがってて。 |
四人、にらみあう。乱闘が始まるが、小夜子らもなかなか手強い。しかし、やはり「世界最強のコンビ」には敵わない。 |
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一子 | どう、まだやるつもり? |
まちこ | この辺で降参した方がいいんじゃないか? |
小夜子 | ……くっ、そんなことができるか! 私はプライドが高いのだ。 |
一子 | 仕方ないわね、じゃあ……。(まだやろうとする) |
出雲 | 待ってくれ。……鍋縞くん、どうせなら、正々堂々と戦おうじゃないか。僕は、こんな風に力で勝ちたくはない。さあ。 |
宇都宮 | ……小夜子様、どうします? |
小夜子 | ……ははは、負けじゃ、負けじゃ。私の負けだ |
宇都宮 | 小夜子様? |
小夜子 | こんな人のよい男を陥れるなど、いくら卑怯な私でも出来ぬわ。ましてや、死んでまで想い続ける恋人まで現れてはな。この私にも、人の情はあるのでな。そこまであくどいことはできぬわ。 |
宇都宮 | 小夜子様……。 |
小夜子 | 心配するな、宇都宮。何も、生徒会役員になるだけがハーレムへの道ではない。体育祭や文化祭のスターになるとか、他にも手はあるではないか。ここは、この男に花をもたせてやろう。 |
宇都宮 | ……そうですね。それでこそ、小夜子様。 |
小夜子 | それでは、行くか。いや、諸君、失礼した。宇都宮、行くぞ。 |
宇都宮 | は。 |
まちこ | ちょいと。そんなこと言っておいて、また卑怯な手を使ったりしないだろうね。 |
小夜子 | 心配いらぬ。武士に二言はない。第一、これで負けても、ハーレムの夢が消えるわけではないからな。まあ、たまには正々堂々と戦うのもおもしろいやもしれぬ。 |
宇都宮 | では、小夜子様。そろそろ参りましょう。 |
小夜子 | ああ。では、諸君。また会おう。ふはははは……。 |
二人、下手に退場。 |
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一子 | じゃ、あたしたちも行きましょうか、出雲さん。 |
出雲 | ええ。 |
まちこ | 頑張ってくださいね。 |
祥子 | ……頑張って。 |
二人、下手に退場。 |
第十場 TRY AGAIN そして……
まちこ | ……あーあ、なんかあっさり終わっちゃったわね。あの人たちも、えらく簡単にあきらめちゃったし。 |
祥子 | きっと根はさっぱりしたいい人なのよ。 |
まちこ | ま、そうかもね。 |
祥子 | ……それじゃ、あたしそろそろ行くわ。 |
まちこ | どこへ? あ、もしかして……。 |
祥子 | (うなずく)あたしをこの世につなぎとめていたのは、後悔の念だけなんだもの。その後悔の種が消えた今、もう思い残すことはなにもないわ。ひとりで行くのはなんだか怖い気もするけど……でも、行かなくちゃね。 |
まちこ | 祥子さん……。 |
祥子 | そんな顔しないで、まちこさん。あたしはね、死ぬんじゃないわ。もう一度生まれ変わるために、ほんの少しの間この世を離れるだけよ。そう、やり直すのよ。今度こそ、死んでから後悔することのない人生を送ってみせる。そのために……行かなくちゃ。大丈夫、きっとまたここに戻ってこられる。あの人の腕に結んだリボン、あれはそのための目印なの。絶対に、見失ったりしないわ。あたし、今から急いで生まれ変わって、そして、どんなことをしてでも、またあなたたちと出逢ってみせるわ。それこそが、あたしの……あたしだけの、ファンタスティックなのよ。あたしにしかできない「素敵」なんだわ。 |
まちこ | ……そんなことまで考えてたの……。じゃ、もうとめないわ。 |
祥子 | ……まちこさん、今までどうもありがとう。あなたたちと逢えて、本当に良かったわ。 |
まちこ | 生きてる間に逢えれば良かったのにね。そしたら、いい友達になれたかもしれないのに。 |
祥子 | きっと、まだ遅くないわ。 |
まちこ | え? |
祥子 | ……ほら、むこうに光が見えるでしょう。あれはきっと、あたしの輝かしい未来のはず。死ぬことは怖いことじゃなくて、無限大の素敵のはず。だから、怖くなんかないわ。……ね、まちこさん。あなたも祈っててくれるでしょう? あたしの未来のために。きっとまためぐり会える、運命のために。 |
まちこ | ……わかったわ、祈っててあげる。一子と二人で。それでいい? |
祥子 | ええ、ありがとう。 |
まちこ | それで、会長さんには会っていかないの? |
祥子 | 逢わずにいくわ。逢ったら、きっと行きたくなくなるから。 |
まちこ | ……そう。じゃ、何か伝えること、ある? |
祥子 | そうね。……「ありがとう、元気で」って、伝えてちょうだい。 |
まちこ | わかった。きっと伝えるわ。 |
祥子 | それじゃ。一子さんにもよろしく。……あなたたちは、あとで悔やむような生き方は、しないでね。(手を伸ばす) |
まちこ | うん。(祥子の手を握る) |
祥子 | じゃ、ね。また、逢いましょう。(通路を通り、退場) |
まちこ | ……そして、祥子の姿は、まるでその光の中に吸い込まれていくように消えていきました。 |
一子 | (いつのまにか舞台に戻ってきている)出雲さんは無事会長に再選、鍋縞さんたちは相変わらずハーレム作りに燃えています。会長さんは、祥子がいってしまったことで少し寂しそうでしたが、それでも立派に頑張っているようです。 |
まちこ | 祥子は今頃どうしているでしょうか。もう生まれ変わっているんでしょうか。もしかしたら、ある日ひょっこりあたしたちの前に現れるのかもしれません……。 |
一子 | ……はあ。なーんか気が抜けちゃったわね。 |
まちこ | うん。ほっとしたような、寂しいような。 |
一子 | でもさ、あの一件のおかげで、随分昔からこの学校にいたような気がする。 |
まちこ | そうね。まだ一ヶ月くらいしかたってないのにね。 |
一子 | そうよね。まだ一ヶ月。これからの方が長いのよね。 |
まちこ | そうなのよね。そんな気はしないんだけど。 |
一子 | それじゃ、頑張らなくちゃね、これから。 |
まちこ | うん。あとになって後悔することのないようにね。 |
一子 | これからの三年間、つらいことも、悲しいこともあるだろうけど。 |
まちこ | そんなものには負けないで、何もかも乗り越えて。 |
一子 | 一所懸命、やらなくちゃね。 |
まちこ | そうね。そして、目指すものは。 |
一・ま | あたしたちだけの、ファンタスティック! |
第十一場 HAPPY ENDING
全員によるフィナーレ。後半は役者紹介。 |